「安い労働力」(コスト削減)を求めて生産拠点を海外に移す製造業と同じく、IT企業のオフショア開発についても、コスト削減を追求するのがこれまでの既存概念だといえる。もちろん根底の部分では今でも、それは変わらない。ところが昨今のオフショア開発に対する考え方には、変化の兆しが出てきているという。

これまで人件費や人材のポテンシャルの面で注目度が高かった中国では、沿岸部を中心に人件費が高騰している。フィリピンやインドネシア、ベトナムなども同じ傾向にある。国が豊かになれば、物価は上がり、人件費も連れて上昇するのは当然である。人件費の高騰に伴って、そのたびに開発場所の国を次々と変えて安さだけを求めるような考え方をしていたら、やがて行き詰まり、立ち行かなくなってしまう。

フィリピンは英語が公用語なので、開発現場でも欧米とのやり取りがスムーズになる点を最大の武器にしている。英語が公用語の強みを最大限に活かし、さらに他のアジア圏と比較すると、まだ安価な人件費でオフショア開発できるのがフィリピンの強みである。
ミャンマーでは小学校で英語を学びはじめ、学年が上がると英語は必須になる。大学の授業はミャンマー語でも、IT分野の教科書や参考書は英語がベースになっているという。「英語」だけを取り上げても、オフショア開発に対する取り組み方は、それぞれの国で異なる。
このように、東南アジアが単なる人件費の安い国ではなく、品質や今後のグローバル戦略を検討するうえでの重要な存在に変わってきている。安い人件費の恩恵のみを求めるのではなく、次のステージを見据えたオフショア開発を追求しなくてはならない。

従来のオフショア開発が、安価な人件費のみを追い求めた「一方通行型」ならば、これからのオフショア開発は現地企業と共に技術力を高め、現地も潤う「共存共栄型」へと移行していかなくてはならない。
すでにそういった動きを見せる日本企業がある。ミャンマーのヤンゴンで現地法人を立ち上げ、ミャンマー人の育成に力を入れている第一コンピュータリソース(DCR)だ。特にメコン川の流域にあるベトナムやタイ、ミャンマーなどでは有能な若い力が大きく育っている。
ミャンマーDCRは、人件費だけを意識した進出では立ち行かなくなることをいち早く感じていたという。「ミャンマーならば優秀な人材を確保できる」と確信し、ヤンゴンに乗り込んだ同社は、現地で大卒採用者を育成している。現在はミャンマー人スタッフが200人を超えるまで成長。若いミャンマー人のエンジニアが目を輝かせて勤務する姿が印象的だ。

一方、ベトナムでは日本への留学経験を生かして自らIT(オフショア開発)企業を設立し、日本からのオフショア開発の受託を増やしているケースが多い。
近年ではベトナム政府によるICT化促進に伴い、国内での販路拡大も目指している。日本がこういった企業を育てることで現地への貢献につながり、互いが成長できる関係を築いていくことが重要になる。

IT業界のみならず、日本企業が海外で歓迎される理由が、実はここにある。日本人の「信用」はアジアでは根強い。人件費のみが追求されてきたオフショア開発の新たなステージとして今後、何を見据えるべきか。各企業に問われるのはその点である。