最終更新日:2023/08/09
チャイナ・プラスワンとは|IT業界はベトナムが最右翼か?!
反日デモや人件費の高騰、コロナ化における経済の失速などから、チャイナ・プラスワンの動きが続いています。本テキストでは今だからこそ知っておきたい「チャイナ・プラスワン」について理解を深めていきましょう。
チャイナ・プラスワンの基礎知識や中国経済の現状、今年5月に可決された経済安全保障推進法などをおさえつつ、チャイナ・プラスワンに次ぐタイ・プラスワンやチャイナ・プラスツーについても解説していきます。
INDEX
1. チャイナ・プラスワンとは?
2. 中国国内の現状とリスク
3. 日本企業におけるチャイナ・プラスワンの趨勢
4. チャイナ・プラスワンにおける候補国
5. IT領域でのチャイナ・プラスワンで最右翼のベトナム
チャイナ・プラスワンとは?
チャイナ・プラスワンとは、それまで中国へと一極集中しがちであった、製造をはじめとした海外拠点を、リスク回避のために中国以外の国や地域に分散させることを言います。
豊富な資源や安価な労働力などから21世紀における世界の工場とも呼ばれるようになった中国ですが、近年は人件費の高騰や反日デモ、労働争議などいわゆる「チャイナリスク」が高まったことから、チャイナ・プラスワンの動きが加速度を増しました。
中国国内の現状とリスク
チャイナ・プラスワンを加速させたのはチャイナリスクの存在です。この10年で起こった中国における大きなカントリーリスク、経済安全保障法制定や中国国内の経済状況について解説します。
|この10年で起こったリスク
日本貿易振興機構(JETRO)による2012年度の調査では、中国での今後1〜2年の事業展開の方向性を「拡大」と回答した企業の比率は前年の2011年度に比べて14.5ポイントマイナスとなりました。また、事業を「縮小」または「第3国(地域)への移転・撤退」と回答した企業も前年に比べて1.3ポイントプラスとなっており、中国離れが加速していることがわかります。
中華人民共和国労働契約法が2008年に施行されてからは労働者の権利意識が高まり、労働争議やストライキも多発。
2010年には尖閣諸島中国漁船衝突事件が発生しており、その後、中国国内で大規模な反日デモが起こり、日本企業が被害にあったことを記憶されている方も多いでしょう。
これらの出来事から、多くの日本企業がチャイナリスク対策としてチャイナ・プラスワンの動きを加速させたのです。
|経済安全保障推進法の影響
これまで日本企業にとって頼れる外注先であった中国は、急激な経済成長を遂げ、今や日本企業の存在を脅かすほどの大きなライバルとなりました。
岸田政権は経済安全保障政策を目玉政策の一つとしており、「経済安全保障推進法」が2022年5月11日の参院選本会議で可決されたことは記憶に新しいところです。
この法律はサプライチェーンの強化や基幹インフラの安全を確保すること、官民による先端技術の開発や特許の非公開といった4本の柱からなる法であり、中国に対抗することを想定して作られています。
例えば柱の一つである「サプライチェーンの強化」は、かつて中国が日本に圧力をかけるためにレアアースの供給を制限したことなどを踏まえて、特定の重要物資の入手先を分散させることなどを支援する内容となっており、チャイナ・プラスワンの動きをさらに大きく加速させると考えられています。実際に、2021年の秋頃から中国のオフショア拠点を見直す企業は増え続けているという声も。
|中国国内の経済状況
コロナ禍において世界経済は大きな打撃を受けて失速しましたが、ここ最近はウィズコロナからアフターコロナという言葉も一般的になり、回復の程度は国によって異なるものの、世界経済は持ち直しつつあります。しかし、中国はと言うとそう明るい状況ではないようです。
中国の2022年4月〜6月期GDPは前年同期に比べて0.4%の成長率となっており、これはコロナ禍がはじまったすぐ後、2020年4月〜6月期のマイナス6.8%に続く低い値となっています。
2022年7月の時点で、建物単位とは言えロックダウンが繰り返されている上海や深圳などの大都市は正常化しているとは言い難い状況であり、上海のロックダウンなどの影響から失業率も増加しました。現在の中国経済は残念ながら、失速傾向にあるというのが現実です。
日本企業におけるチャイナ・プラスワンの趨勢
外務省の「海外進出日系企業拠点数調査」によると、日系企業の海外拠点数の40%が中国となっていますが、2018年にはこの割合が43%であったことを考えると、じわじわと減少傾向にあるようです。
チャイナ・プラスワンの候補国として現在もっとも有力と言われるのがベトナムですが、ベトナムの拠点数は2018年には1816拠点となっており、全体の2.4%でした。これが2021年には2306拠点、全体の2.9%へと増加しています。
実は、チャイナ・プラスワンが叫ばれた当初、もっとも候補国として有力だったのはタイでした。実際、今もタイへと拠点を置く日系企業は多いのですが、2011年にタイで大きな洪水被害が発生したことから、中国以外でも拠点を一つに絞ることの危険性を大きく知らしめる出来事となりました。
その後、タイの人件費も高騰しており、タイ・プラスワンという言葉が生まれ、最近ではチャイナ・プラスワンに加えてチャイナ・プラスツー、チャイナ・プラススリーという言葉も登場しています。
|日本企業がチャイナ・プラスワンを検討する要因
日本企業がチャイナ・プラスワンを検討する大きな要因は、先に述べたとおりチャイナリスクの存在です。また、中国の人件費の水準が近年大きく上がったことから、企業にとって中国に拠点を置くメリットが少なくなったことも要因として挙げられるでしょう。
|日本企業におけるチャイナ・プラスワンの事例
上海日本商工クラブは、上海に進出している日本企業の14%が今後の中国投資を縮小または延期すると回答しているという調査内容を発表しました。中国の厳格なロックダウンが大きな要因であり、チャイナ・プラスワンの動きは今後も加速すると考えられています。
では、実際に日本企業におけるチャイナ・プラスワンの事例にはどのようなものがあるのでしょうか。
2020年7月、任天堂は主力商品のNintendo Switchの生産ラインを一部、中国からベトナムへと移管すると発表しています。
そのほかにも、リコーはアメリカ向けの複合機生産を中国からタイへと全面的に移転。アシックスは一部商品の生産をベトナムへと移管しました。
チャイナ・プラスワンにおける候補国
チャイナ・プラスワンにおける候補国として挙げられるのがASEAN諸国です。近年は人件費が高騰傾向にはあるものの、まだまだ人件費においては優位性が見られるため、人気を集めています。
この項ではチャイナ・プラスワンの候補として注目されるASEAN諸国について簡潔に解説します。
|ベトナム
人件費が比較的安価であり、チャイナ・プラスワンの筆頭候補とされているのがベトナムです。2022年4月〜6月期GDPは前年同期に比べて7.72%増と、中国と対照的な急成長を遂げています。
アメリカと中国の対立によってベトナムに拠点を新しく作る企業が増えており、上海のロックダウンの影響からベトナムでの生産量を一時的に増やすという措置をとる企業も。
ベトナムの総輸出額の2割が韓国のサムスン電子がベトナムで生産しているスマートフォンであり、輸出も好調で個人消費も回復傾向にあるベトナムは世界経済と共に成長を続けています。
国内情勢が安定していることや、比較的人件費が安価であること、勤勉な国民性からチャイナ・プラスワンの筆頭候補であると言われています。
ベトナムについては次の項で詳しく解説します。
|ミャンマー
ミャンマーもポストチャイナとして人気の高い国ですが、ミャンマーは2021年2月に発生した政変の影響で、事業の縮小を考える日本企業の割合が増加しています。しかし、半数以上が事業を拡大もしくは現状維持するとJETROの調査で回答しており、今後の情勢やビジネスにおけるさまざまな環境の変化によっては、この割合も変化していくのではないかと考えられています。
|カンボジア
安価な人件費から魅力を集め、中国や日本から進出が相次ぐカンボジア。かつては日本が最大の支援国でしたが、2010年には中国が最大の二国間援助国に。チャイナ・プラスワンだけでなくタイ・プラスワンの候補国としても脚光を浴びました。
コロナ禍前の2019年までは安定して年率約7%の経済成長を遂げており、アフターコロナの2021年はプラス成長となりました。
|フィリピン
現在、コロナ禍による経済状況の悪化からは未だ抜け出せていないものの、チャイナ・プラスワンだけでなく、タイ・プラスワンが取り沙汰された時期に多くの企業から注目が集まったのがフィリピンです。日本との関係も良好であり、2011年9月には両国の関係は「戦略的パートナーシップ」に位置付けられました。
前政権であるドゥテルテ政権下で進められたインフラ投資計画によって積極的にインフラ整備が行われています。
比較的、賃金上昇率が低いことや、英語を使える人材の確保が可能なことから、日本企業の進出先としても人気が高い国です。
IT領域でのチャイナ・プラスワンで最右翼のベトナム
先に少し触れましたが、ベトナムは日本からのODA受け入れが多い国であること、国内情勢が安定しており他のASEAN諸国の中では比較的治安がいいこと、新日であること、勤勉な国民性であることなどから日本企業の進出先としても年々人気が高まっている国です。
国内情勢の安定性や優遇政策などが充実しているアジア諸国にはマレーシアやインドネシアもありますが、この両国は労働コストがベトナムを上回るため、チャイナ・プラスワン筆頭候補はやはりベトナム、というのが現状のようです。
国内の就職先としてIT分野の人気が高いベトナムではAIの教育にも力を入れており、今年度からすべての中高一貫校でAIの授業が行われます。勤勉な国民性もあり、優秀なエンジニアが増加傾向にあるのは、オフショア開発を考える日本企業にとって非常に魅力的ですね。
まとめ
世界で最も影響力のある50人に選出されたこともある、ロックフェラーインターナショナルの会長ルチル・シャルマ氏は、「アメリカや中国、ロシアを含む古い大国は次の10年で成長する国には入っていない」「次の10年で成長が期待できるのは新興国である」という内容の論文を発表。氏曰く、製造業とITにおいてはポーランドとベトナムが牽引し、安価な労働力を求める企業はバングラデシュやカンボジア、ベトナムに注目するとのこと。
さまざまな要因から、チャイナ・プラスワンの動きが加速しており、中国経済もコロナ禍の影響で失速している今、ポストチャイナとして注目されているベトナムをはじめとしたASEAN諸国へと多くの企業が拠点をシフトする動きは止まりません。
円安の影響もあり、チャイナリスクによって情勢が安定せず、人件費の高騰している中国よりも、他国へとオフショア拠点をシフトすることでコスト削減につなげたい企業は多いでしょう。
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