新しくオフショア開発を導入する場合やアウトソース先を拡大するというニーズの場合、最近ではベトナムが委託先として最も人気を集めています。2022年のデータを見ると国を指定した開発の相談のうち、実に48%がベトナムを希望した相談となっています。

下記の図は、オフショア開発. comが発注先選定の依頼を受けるなかで、発注者が希望したアウトソース先の国をまとめたデータです。アウトソース先の国を指定しない相談が66.9%と最も大きいのですが、国を指定した場合の一番人気はベトナムで48%となっています。次いで、フィリピンの19%、インドの12%と続きます。
オフショア開発が日本で導入された当初からアウトソース先となっている中国は、現在でも大きな市場であることは間違いありませんが、新たなオフショア先という選択肢からは外れており、7%という結果です。また、ミャンマーも主要なオフショア開発国でしたが、直近では政情不安の影響もあり、新規の委託は減少し2%とシェアを落としています。その他、バングラデシュやインドネシアなど、対日のオフショア開発としては新たな国の新興も見られます。
* 出典:「オフショア開発白書(2022年版)」
オフショア開発の現状や動向は各国別に大きく異なります。ここではベトナム、中国、フィリピン、ミャンマー、インド、バングラデシュの6ヵ国にフォーカスして解説します。
■ ベトナム|新たなアウトソース先としては人気が一極集中
ベトナムは2022年現在も最も人気のアウトソース先となっております。新型コロナウイルスも早期に封じ込めに成功したことも要因の一つでしょうが、親日であること、勤勉な国民性、地理的な近さ、単価の安さが揃っていることが大きいです。
ベトナムがアウトソース先として積極的に検討されるようになったことに関連して、最近では基幹システム/AIやブロックチェーンなどの先端テック系やPKG開発(SAP / Salesforce / kintone…)にも対応できる企業が増加している点も特筆すべきでしょう。
さらにはこれほど案件が集中する理由として、「選択肢の多さ」が挙げられます。各企業の成り立ちから種別化すると次のような構成になっており、それぞれの特長を活かした提案を行ってくれます。
・ベトナム資本によってベトナム人が設立したケース(特長:単価が安め)
・日本資本によって日本人が設立したケース(特長:日本企業向けサービスが充実)
・日本企業のオフショア拠点が、他社の案件も受けるようになったケース(特長:実績が豊富)
ただし、ベトナムは単価が上昇傾向であることには留意することが必要です。特にハノイ、ホーチミンの二大都市はそれが顕著ですので、ダナンやフエといった地方都市や「ポストベトナム」として期待されるバングラデシュやミャンマーなどをあわせて比較検討することも中長期的には重要な観点になります。
■ フィリピン / バングラデシュ / ミャンマー|ポストベトナム候補3ヵ国
フィリピンに発注する理由は「英語の製品や、プロジェクト上のコミュニケーション言語に英語を希望する」といったケースが最も多く挙げられます。
この点において、フィリピンがベトナムに次いで発注先として選ばれているのは、昨今、日本企業の海外進出やグローバル化が進んでいるという大きな背景があるでしょう。自社HPの英語化や、越境ECの構築といった案件は、英語文化の根付いたフィリピン企業の得意とするところです。また、国内のITリソース不足=日本語の扱えるエンジニアの不足と捉えると、英語でのIT開発を促進していかなければならないという危機感も後押ししている印象にあります。ベトナムは日本語に長けているものの、英語力ではフィリピンの後塵を拝します。その点、今後のポストベトナムの動きの中で、「英語」というのは一つのキーポイントとなってきそうです。
その点では、ポストベトナム2番手となったバングラデシュも英語が得意な国です。また、フィリピンよりも多くの人口を抱え、ベトナムにも負けないほどIT立国を国策として目指している点も注目できる点です。
また、フィリピンがベトナムと同程度の単価でエンジニアを提供しているのに対し、バングラデシュのリソースは平均的に安価だという大きなストロングポイントがあります。実際に、ベトナムのオフショア開発企業が、リソースの確保のために、バングラデシュの人材を活用するという事例も増加しており、ポストベトナムが現実味を帯びてきています。自動車産業などが、Tier1、Tier2、Tier3と、階層化された請負業者を持つように、オフショア開発も国を跨いだ階層化が進んでいくことが予測されます。
さて、最後にミャンマーですが、2016年にアウン・サン・スー・チー氏が実質的な権力を握ると、民主化が本格的に進むという予測のもと国外からの投資が増え、課題であったインフラの問題などが解決されつつありました。その流れに呼応するように、相談のシェアは増えていき、その結果として、プロジェクトを進める力を持ったエンジニアの育成が進みつつある点にも注目です。また、こちらもバングラデシュと同様に安価なリソースが最大の強みです。一方、バングラデシュとの違いは、日本語人材の多さでしょう。ただし、ミャンマーに関しては政情が一変し、非常に不安定となっております。2022年に関しては、そのような政情も注視しつつ、動向を見ていかなくてはいけないでしょう。
■ 中国 / インド|オフショア開発拠点からグローバル開発拠点に
かつて日本からのオフショア開発先の中心であった「中国」、そして欧米のオフショア開発拠点として栄華を極める「インド」はどうなっているのでしょうか。先述のグラフから読み取れる通り、インドは12%と3番手につけおり、年々増加傾向です。要因として大きいのが、「基幹系システム」といった高度案件でのオフショア開発ニーズが増加し、その受け皿として注目されてい ることが挙げられます。
ベトナムやフィリピンといった国々では、徐々に増加しているもののまだまだ基幹系システムの開発に対応できる技術者を多数抱えている大規模な企業はそれほど多くありません。その点、豊富なリソースと実績を有するインドが注目されているのです。ただし、そうした案件におけるエンジニアの単価は日本と同等となっており、オフショア開発という観点からの最大のメリットである「コスト削減」は期待できません。あくまで「最適なリソース確保」つまり「グローバルな開発体制の構築」の手段として捉えられていくでしょう。
一方、中国の新規発注シェアは年々減少しています。既に中国のオフショア開発企業を活用している企業は多く、市場規模としては大きいでしょう。しかし、昨今のカントリーリスクを鑑み、そうした案件もベトナムやその他の国へのシフトが始まっています。
それではこの先、中国をオフショア開発先として活用することは難しくなっていくのでしょうか。この問いの答えはある意味では「正しい」でしょう。いまや中国企業の技術力は日本を凌ぐと言われています。それに伴って、単価の上昇は著しく、コストメリットはほとんど期待できません。一方で、中国企業でしか開発できない案件も増えてきています。その点で、「オフショア開発」ではなく、インドと同様「グローバルな開発体制の構築」の手段として捉えられていくことになるでしょう。
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